原油価格には景気悪化を懸念し下押し圧力がかかっている=イメージ(写真:Sodel Vladyslav/Shutterstock.com)

ロシアや中東をめぐり地政学リスクが高まるなか、原油価格が大きく上昇する気配はない。米国債の格下げなど、米国の財政悪化や経済の先行きを懸念する見方が根強いからだ。ロシアとNATOが軍事衝突するような極めて深刻な事態が生じれば原油価格が急騰する可能性はあるが、今のところ原油需要の停滞に対する懸念が地政学リスクを上回っている。

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=60ドルから64ドルの間で推移している。ロシアと中東の双方で地政学リスクが高まっているが、価格の下値は先週に比べて1ドル低下した。

 まず、最初に世界の原油市場を巡る動きを確認しておきたい。

 ロイターは5月20日「カザフスタンの原油生産量は5月に入っても増加している」と報じた。OPECプラス(OPEC=石油輸出国機構とロシアなどの大産油国で構成)は減産要求を突きつけているが、カザフスタンの5月1~19日の原油生産量は日量平均186万バレルで、5月の割り当て枠(同148万6000バレル)を大幅に超過している。 

 OPECプラスは、割り当て枠を守らない加盟国に対して増産を加速させて原油価格に「下げ圧力」をかける方針に舵を切ったが、組織内の結束はいまだ図られていない。

 ブルームバーグは22日「OPECプラスは7月も5、6月と同様に日量41万1000バレル増産することを検討している」と報じた。6月1日の会合で決定される見通しだが、実現すれば3カ月連続の大幅な供給拡大になるため、原油価格の下落を誘った。サウジアラビアの苛立ちがますます募っている感がある。

 一方、米国の原油生産は伸び悩んでおり、ピーク時(日量約1360万バレル)から20万バレル程度減少している。米石油大手コノコフィリップスのランスCEOは20日「横ばいとなっているシェールオイルの生産は1バレル=50ドル台になれば本格的に減少する」との見方を示した。

 需要面では中国の鉱工業生産が材料視された。前年比の伸びが3月の7.7%増から6.1%増に鈍化したため、中国原油需要の減退が意識された。

 ドライブシーズンを控えた米国の原油や石油製品の在庫増加も重しとなった。  

 今週は地政学に関する動きが目立った。