悪化が続く原油市場のセンチメント

 CNNは20日「米情報機関が『イスラエルがイランの核施設を攻撃する準備を進めている』と分析している」と報じた。

 国際社会で孤立を深めるイスラエルが強硬路線に一段と傾いている可能性は否定できないが、このタイミングでのリークは、23日の5回目の協議に先立ち、米国がイランへの圧力を強める狙いがあったとの見方もある。

強硬姿勢を強めるイスラエルのネタニヤフ首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 米国とイランとの間の協議は続いているが、不透明感が漂い始めている。

 米国がウラン濃縮の完全停止を要求しているのに対し、イランは「行き過ぎであり、言語道断だ」と猛反発しているからだ。

 核協議が決裂すれば、原油価格に上昇圧力がかかるのは間違いない。だが、こうした地政学リスクによる上昇圧力が市場に与える影響は限定的だろう。

 筆者が注目しているのは、原油市場が米国経済の不調を織り込み始めていることだ。

 米格付け企業ムーディーズ・レーティングスが16日に米国債の格下げを発表すると、同国の財政悪化や経済の先行きが嫌気され、リスク資産である原油先物への「売り」が入った。米財務省が21日に実施した20年物国債の入札が低調だったことも災いした。

 国債価格の下落や株安、ドル売りといった米国資産の「トリプル安」となったため、原油市場のセンチメントも悪化した。

 インフレは再燃していないようだが、米国民の消費マインドは急速に冷え込んでおり、今年後半のリセッション(景気後退)入りが現実味を帯びている。

 イラン・イラク戦争が災いして中東産原油の供給が滞ったのにもかかわらず、世界的な景気後退のせいで1980年代の原油価格が低迷したように、地政学リスクによる原油価格の押し上げ効果は需要不振の状況下では限られる。

 中国に加え米国の原油需要の先行きが疑問視されるようになれば、原油価格の下落傾向は一層鮮明になるのではないだろうか。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。