(英エコノミスト誌 2025年5月24日号)

ここで内向きになれば、ポーランドも欧州大陸も損をする。
この国は強欲な隣国に飲み込まれて地図から消えたことが2度もある。
第2次世界大戦後に再び姿を現した時には旧ソビエト連邦の衛星国家になっており、数十年に及ぶ圧政を耐え抜いた。
そして今、ポーランドは欧州で最も見過ごされている軍事・経済大国に変貌を遂げている。
陸軍の規模は英国、フランス、ドイツよりも大きく、購買力平価ベースで見た生活水準は日本のそれを上回りそうなところまで上昇している。
しかし、再び誇り高く立ち上がらねばならないまさにその時に、ポーランドはその影響力を投げ捨ててしまうのだろうか。
輝かしい発展を遂げたポーランド
6月1日の大統領選挙決選投票に向けてポーランドの有権者が直面しているのは、まさにこの問いだ。
2人の候補者の一方は野党「法と正義(PiS)」に属しており、近隣諸国や欧州連合(EU)との摩擦を助長する右派の国家主義のビジョンを掲げている。
もう一方は中道派で、欧州は安全保障と経済のダイナミズムをもたらすポーランドを必要としているが、ポーランド自体もこの危険な世界でさらに強くなるために欧州が必要だと訴えている。
残念ながら、現時点では右派が優勢かもしれない。
ポーランドは過去30年間で、欧州統合と優れた経済政策があれば国は何をどこまで達成できるかを示してくれた。
1人当たりの所得は1995年以降で3倍以上に増加した。
2004年にEUに加盟してからは、新型コロナウイルス対策のシャットダウン(都市封鎖)真っ盛りの短い時期を除けば、景気後退を一度も経験していない。
過去20年間の経済成長率(年率)の平均はほぼ4%だ。
この経済成長の果実は国内のあちこちで目にすることができる。
首都ワルシャワには、ロシアを除くと欧州で最も高いビル「ヴァルソ・タワー」がそびえ立つ。
その眼下にはデザイナーズ・ショップやカフェ、IT(情報技術)スタートアップ企業やファッション・ハウスがひしめいている。
かつては見向きもされなかった農村部でも、多くはEUの資金で建設された立派な道路が縦横に走っており、手入れの行き届いた畑や農場があったり新しい家々が建ち並んでいたりする。
欧州の安全保障を支える「四銃士」に
かつては働き口を求めてポーランドから外国に出て行く人が多かったが、近年は国内の方が魅力的になっている。
ドイツとの距離の近さのおかげで製造業は活況を呈しており、この西隣の国が他の欧州諸国と同様に不振にあえいでいる時でも好調を維持できている。
ドイツがフリードリヒ・メルツ新首相の下でインフラ整備費用と防衛費を増額する計画に着手すれば、ポーランドがその恩恵を享受できそうだ。
ロシアの脅威に昔から慣れているポーランドは、その富を安全保障の強化に投じてきた。
陸軍の規模は、欧州ではロシア、ウクライナ、トルコに次ぐ第4位で、北大西洋条約機構(NATO)でも第3位につけている。
年間の防衛費は対国内総生産(GDP)比で4%を優に超えており、NATOが2014年から目標に掲げる2%を大幅に上回る。来年には5%以上に引き上げる計画だ。
そのため、ポーランドは影響力も高まっている。
今日では、欧州の安全保障で重要な国を「四銃士」と呼ぶことがある。英国、フランス、ドイツが「三銃士」で、その友人である無敵の剣士「ダルタニアン」がポーランドだというわけだ。
実際、ドナルド・トゥスク首相は今月、フランスの大統領と英国、ドイツの首相とともにウクライナの首都キーウを訪れ、米国の関与がたとえ弱まっても欧州にはウクライナの味方をする準備ができていると強調した。
ポーランドのこのスタンスは、「ヴィシェグラード・フォー」と呼ばれるグループのほかのメンバーとは好対照をなす。
オルバン・ビクトル首相率いるハンガリーとロベルト・フィツォ首相のスロバキアは、どちらもウクライナではなくロシアの側に付いている。
チェコ共和国も10月の選挙後は親ロシアに傾くと見られている。