
(若月 澪子:フリーライター)
保育、介護、看護など、ケア労働の過酷さがメディアで語られない日はない。問題になるのは働く人の長時間労働と低賃金だ。
しかし、現場スタッフを最も追い詰めるのは、同僚の「意地悪な女帝」だという声もよく聞く。職場に長年居座るベテラン女性職員が、施設長などの管理職よりも圧倒的な権勢を振るい、現場のスタッフを翻弄し、職場を去る人が後を絶たないという話は、ケア労働に巣食うもう一つの現実である。
そして、ケア労働という「女性社会」にいる男性スタッフは、従属する立場に置かれがちだ。
「何が一番嫌かというと人間関係。どの現場に行っても、ボスのような女性がいますね」
都内在住のEさん(60)は、5年ほど前に介護の世界に入った男性介護士。スキンヘッドで、目鼻立ちのハッキリしたEさんは、背が高くがっしりしている。介護する高齢女性からは、夫や恋人のように思われることも多い。
「介護は大変ですけれども、自分には他に道がなかった」
心臓の持病があるEさんは、体に負担のかかる介護職はドクターストップがかかっている。それでも彼が働くのはなぜか。
Eさんは昭和39年(1964年)生まれ。大学を卒業し、大手不動産会社に就職した昭和61(1986)年は、バブルの真っ只中だった。
「当時は誰もが不動産を『売りたい売りたい』『買いたい買いたい』って。初ボーナスは60万円。人生を舐めていました」
中古物件を仲介する営業マン。有名企業の副社長や検察庁の部長にも、物件を販売したことがEさんの自慢だ。ところが30歳を過ぎたころ、仕事を辞めざるを得なくなる。
「学生時代からハマっていた麻雀に、就職してからもハマり続けたんです。徹夜麻雀でヘロヘロになって仕事へ行く。ギャンブル依存症です。お客さんの案内をすっぽかすなどトラブルもあり、営業成績は下がる一方。会社にいられなくなってしまいました」
Eさんはパン工場や警備員を勤めたのち、麻雀店に住み込みで転がり込む。どうしても麻雀をやめられなかったのだ。