おばあちゃんと一緒に寝てあげたいのに

 孤独なEさんには、入居する高齢者との交流が楽しみとなった。

「おばあちゃんは嫌いではない。継母に育てられたので、母親の愛情に飢えていたのかもしれない」

 Eさんが忘れられないのは、ある80代女性との別れだ。

「認知症のおばあちゃん、トイレ介助の時などに抱き着いて、自分を彼氏のように思っていた。自分の方もすっかり情が移っていたが、いよいよ容体が悪くなり、病院に移ることになって。お別れは自分が病院へ付き添うはずでしたが、女性介護士がさっさとおばあちゃんを連れて行ってしまいました」

 施設介護では、複数の高齢者を一度に看るため効率が重視される。丁寧に愛情を注ごうとしても、そういうわけにはいかない。介護にやりがいを感じ始めていたEさんは介護施設を2年で辞め、自分のペースで利用者に向き合える訪問介護を選んだ。

「担当していた利用者に、一人暮らしの100歳のおばあさんがいました。デイサービスからの帰宅を迎え入れ、排泄介助して、食事介助して、口腔ケアして、就寝介助もして。話せないけど『あーあー』と甘えるように抱きついて一緒に寝ようとする。亡くなったご主人と間違えているようでした」

 一緒に寝てあげたい。でも、このおばあさんを介護しているヘルパーはEさんだけではなく、交代でさまざまなヘルパーが入る。善意でしてあげると、ほかのヘルパーの仕事を増やすことになってしまう。できる範囲の愛情でおばあさんを寝かしつける。

 訪問介護には別の過酷さもあった。

「1日あたり受け持っていた利用者は6~11件で、移動が大変だった。遠い現場は自転車を飛ばして25分かかる。台風の日、冬の冷たい雨が体にこたえた」

 移動は自転車。雨の日の移動はレインコートを着ていても、足はびしょ濡れ、手はかじかむ。服を乾かす暇もなく、次の利用者の家に行く。大雨でも大雪でも、コロナでも介護は休めない。

 結局、体を壊した。夜眠れなくなるくらいの息苦しさを感じ、心不全に。病院で心臓弁膜症と診断され、手術も受けた。