
(福島 香織:ジャーナリスト)
最近、チャイナウォッチャー界隈で盛り上がっているゴシップスといえば、今年夏に行われる四中全会(第四回中央委員会全体会議)で習近平が引退する、あるいは2027年の第21回党大会で習近平が引退すべく、その後継人事が決まる、というものだ。
5月中旬に政治局拡大会議が開催され、その席で長老たちが習近平に引退を迫り、習近平もメンツを保てる形での引退ならば受け入れる、ということになり、今その後継人事でもめている、あるいは四中全会でその人事が討議される、という「噂」だ。
正直、まともなメディアは取り上げることもないと思われる話なのだが、それでも関心を持つ人は多いようで、私に対しても、何度か問い合わせが寄せられた。それで、フェイクニュースであるとしても、どういう流れでこうした噂が流れているのか、また「噂」の中で信ぴょう性のある部分は含まれているのか、精査してみたい。
著名な華人チャイナウォッチャーたちが拡散
四中全会とは党中央の4回目の全体会議を指し、党の政策、方針は年に1回以上行われる党中央全体会議での討議と採決を経る必要がある。通常、党大会が行われた翌年は二中全会が春の全人代前、三中全会が秋に行われ、1年に2回の中央委員会が行われる。
だが習近平の独裁体制をめぐる党中央内の権力闘争の影響で、2023年秋に行われる予定の三中全会が大幅にずれて2024年7月に行われた。それで四中全会は今年行われるはずなのだが、秋ではなく、夏に前倒しで行われるのではないか、と言われている。
というのも、秋には抗日戦争世界反ファシズム戦争勝利90周年記念という重要外交イベントが控えており、その前に四中全会を済ませておくほうが、共産党と解放軍の団結アピールに有利と見られているからだ。それで、そろそろ、四中全会の日程が公表されるタイミングではないか、という期待が5月になって高まっていた。
そういう状況で冒頭に触れた噂があちこちではじけはじめた。出所は、中国のSNS界で人気の華人チャイナウォッチャーたちだ。具体的には、老灯、江峰、蘇小和、李沐陽、文昭、蔡慎坤、姜維平、姚誠らだ。彼らは党内の信頼できる筋から聞いた、ハイレベルから聞いたと言った形で、この「噂」を報じ、あるいは「本当かわからない」といいながら転載している。
その内容を簡単に言えば、まず老灯らが、5月14日に北京で政治局拡大会議が開催され、長老たち、軍の老幹部たちが勢ぞろい、病身の胡錦涛・元総書記も出席し、胡錦涛と軍事委員会副主席の張又侠らは習近平を批判する発言を行い、引退を迫った、という「噂」を紹介。
胡錦涛の発言の中には、「温家宝と李克強はずっと鄧小平の改革開放路線を継承してきて、大きな成果を得た。しかし、一部の人たち(暗に習近平派閥を指す)は集団指導を無視し、個人崇拝にこだわり、その成果を台無しにして、現在内政にも外交にも困っている」といった内容が含まれていたとか。
さらに、胡錦涛は「たとえ内戦になったとしても、改革開放路線を取り戻さねばならない」と激しい言葉を語ったとか。そして次の四中全会では新しい政治局の人事を行い、共青団派(共産主義青年団出身)を3分の1以上にするように求めたという。
また張又侠も発言を行い、「前回の党大会(第20回党大会)で、習近平の総書記再任を支持したことは間違っていた」と述べたという。さらに、習近平が反腐敗の名の下に軍内反習近平派を粛清したことで軍を混乱させた、習近平夫人の彭麗媛が軍の人事権に関わるようになって、習近平の軍隊になってしまった、などと批判したという。
張又侠は、習近平は総書記、国家主席、軍事委員会主席を引退しなければならない、党と国の未来を極左路線に持っていかれるのを防がねばならない、と呼び掛けたとも。