韓国の古里原発=2013年撮影(写真:ロイター/アフロ)

 ウクライナ戦争やイスラエル・イランの交戦といった国際紛争で、核施設が攻撃対象になる例が目立っている。6月22日午前(日本時間)には米軍がイランの核施設を攻撃したとの発表もあった。

 では、朝鮮半島で有事が起き、韓国の原発が攻撃されたら、日本を含む東アジアでは何が起きるのか。そんなケースを想定した日米韓3カ国の専門家によるシミュレーション結果が公表された。稼働中の原発では世界最大の韓国・古里(こり)原発が攻撃された場合、深刻な放射能汚染によって日本国内だけで避難者は1000万人に達するほか、米国からは自衛隊派遣を求められ、日本は深刻な混乱に陥るという。この結果を果たして絵空事と笑っていられるのか。驚愕のシミュレーション結果を3回にわたってお伝えする。

(青木 美希:ジャーナリスト)

【韓国原発攻撃シミュレーション】
① 北朝鮮のドローン攻撃で放射能拡散、日本は1000万人避難…米国の介入で戦争に
②  米国は中国・北朝鮮攻撃へ、日本は軍事協力拒否…危ないのは使用済み核燃料
③ 日本の原発施設が攻撃されたら…六ヶ所再処理工場なら最大避難者数は8920万人

米NGOによる驚愕のシミュレーション

 シミュレーションを手掛けたのは、米国のNGO「The Nonproliferation Policy Education Center」 (NPEC、核不拡散政策教育センター)。核拡散問題をめぐる政策の研究や教育を行う専門機関で、その提言や発言は再三、各国のメディアに引用されている。

 今回のシミュレーションには米軍人や議会スタッフ、核の専門家、原子力行政に関わった日韓両政府機関の元高官ら約30人が参加。4年に及ぶ準備期間の後、机上演習は昨年2回に分けて実施され、結果は「Strategic Distraction: Pyongyang’s Proxies Target South Korea’s Reactors」と題する報告書にまとめられた。

 では、その内容を参加者の証言をまじえて見ていこう。

【前提】

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権(2017〜2022年)は、隣国・日本で2011年に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故を教訓とし、脱原発政策を取っていた。これに対し、後任の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領(内乱を企てたとして2025年4月、弾劾で罷免)は「脱原発政策を白紙化して、最強の原発国を建設する」と原発推進へ転換した。

 古里原発は、韓国南東部の釜山市と蔚山(ウルサン)市の海沿いに8基が並ぶ。九州までの距離は直線で約200km。原発事故における「200km」は、決して遠い距離ではない。福島第一原発事故の際に専門家が作成した最悪のシナリオは、原発から250km圏内を任意避難のエリアとすべきだ、としていた。 

韓国南東部の古里原発(2022年、小原つなき撮影)