ファーウェイの任正非CEO(資料写真、撮影2020年1月21日、写真:ロイター/アフロ)

 中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)の創業者、任正非(レン・ジェンフェイ)CEO(最高経営責任者)は6月10日、自社の半導体技術について「米国の同業企業に1世代遅れている」との認識を初めて公式に示した。

 中国国営メディアとのインタビューで明らかにしたもので、英フィナンシャル・タイムズ(FT)や英ロイター通信などが報じた。

 米中間の貿易協議が続いていた中での異例の発言だった。米国の輸出規制を意識し、同社の技術力を控えめに語ることで、規制強化を牽制する狙いがあったとみられる。

 一方で、任氏は単一チップの性能不足を多数のチップを連携させて処理能力を高める「クラスターコンピューティング」技術で補う「回避策」に活路を見いだしていると強調。

 米国の技術覇権に対抗するための具体的な戦略と今後の展望を明らかにした。

単体の性能差、システム全体で対抗

 中国共産党機関紙、人民日報とのインタビューで、自社のAI向け半導体「昇騰(Ascend)」シリーズについて、市場を独占する米エヌビディア(NVIDIA)製に及ばないと認めた。

 その上で「我々は物理学を数学で、ムーアの法則を非ムーアの法則で、単一チップをクラスターコンピューティングで、補う」と述べ、ソフトウエアとシステム全体の設計で性能差を埋める戦略を語った。

 ファーウェイはこの戦略を体現する製品として、2025年4月にAIサーバー「CloudMatrix 384」を発表。

 これは自社製チップ「Ascend 910C」を384基、独自の光学技術で高速接続するもので、AIの学習に必要な大規模な計算処理を実行する。

 アナリストからは、システム全体としての性能は、一部の指標でエヌビディアの最新システムを上回る可能性があるとの評価も出ている。

米国の輸出規制が生んだ「手ごわい競争相手」

 2019年以降、米国は安全保障上の懸念を理由に、ファーウェイが最先端の半導体や製造装置を国外から調達することを厳しく制限してきた。

 これにより、ファーウェイはエヌビディア製の高性能チップを入手できなくなったが、これが中国国内テクノロジー企業によるファーウェイ製品の採用を促す追い風となっている。

 米国の対中規制は、結果的にファーウェイを「手ごわい競争相手」(エヌビディアのジェンスン・フアンCEO)に育て上げ、米国の技術的優位性を脅かす皮肉な状況を生み出している。

 米商務省はファーウェイ製チップの使用が輸出規制違反にあたる可能性を示唆するなど、警戒を強めている。