嫌イスラエルで極右極左が呉越同舟
イスラエル支援の軍事介入にMAGAの一部から拒否反応が出ている背景には、イスラエルに対する米国民の変化がある。
政治サイト「リアルクリアー(RealClear)」のデイビッド・スウィンドル氏は、「Enemy of Our Enemy: Why the Far-Right Calls for a “Free Palestine”」というタイトルで、極右と極左が反イスラエルで一致し始めたと書いている。
(‘Enemy of Our Enemy’: Why the Far-Right Calls for a ‘Free Palestine’ | RealClearInvestigations)
一言ででいえば、2023年10月7日のイスラエルによるガザ侵攻を受けて、米極右のインフルエンサーが白人至上主義者や反ユダヤ支持者たちにハマス支持を訴え始めたというのだ。
一方、極左はもともと反イスラエルのスタンスをとっている。
米極右の代表格が、Z世代のニック・フエンテス氏(26)だ。同氏はこう主張する。
「ユダヤ人過激主義者の政党であるイスラエルのリクードが、イスラエル政府を乗っ取り、ガザでジェノサイドを行っている。今こそ反ユダヤのキャンペーンを開始する絶好のチャンスだ」
この主張は、ソマリア出身の難民でムスリム女性初の米連邦議会議員の極左、イルハン・オマル下院議員(民主党、ミネソタ州選出)の見解と全く同じなのだ。
フエンテス氏が主催したデトロイトでの集会には、白人至上主義の秘密結社クー・クラックス・クラン(KKK)の元指導者、デイビッド・デューク氏が招かれ、「ユダヤ人種主義から我が国を救出せよ」と檄を飛ばした。
フエンテス氏と並んで反ユダヤ主義を唱える極右はジャクソン・ヒンケル氏(25)。
SNS「X」のフォロワーは300万を超え、特に若者の間で絶対的な支持を得ている。
同氏は「イスラエルのテロに直面している今、我々はイランを支持すべきだ」と訴えている。
シンクタンク「キャピトル・リサーチ・センター(Capitol Research Center)」のライアン・マウロウ氏は、極右、極左が共有する反イスラエルに対するスタンスについてこう指摘している。
「背景には、今のイスラエル政府に対する強い憎しみや嫌悪感(Animosity)がある。イスラム教主義者の対イスラエル観を米国の極右、極左が共有しているのだ」
「左派の中には、それまで極右が軽蔑の意味を込めてイスラエル政府を呼んでいた『Zionist Occupied Government』(シオニストによる占領政府)という表現まで使い始めている」
「非人道的なガザ政策を採るイスラエル政府をBDS(Boycott, Divestment, Sanctions Movement)=ボイコットし、イスラエルへの投資を撤回し、制裁を加えるべきだとしている」
こうしたメッセージが極右、極左のインフルエンサーを通じて大学のキャンパス、労組、メディアに浸透し、米世論形成に影響を与えているとすれば、米国民の間に「なぜイスラエルのために米軍を派兵せねばならないのか」という疑問が出てきても不自然ではない。
歴史を振り返れば、米国の親イスラエル志向は、イスラエルを世界最初に国家承認したハリー・トルーマン第33代大統領政権以降からだ。
米国はイスラエルに対して、1946年から2022年までの76年間に3179億ドルの対外援助を供与してきている。
被援助国としては群を抜いて1位だ。
(A brief history of the US-Israel ‘special relationship’ shows how connections have shifted since long before the 1948 founding of the Jewish state )
(How much aid does the US give to Israel? | USAFacts)
ナチスによるユダヤ人弾圧、それを見てみないふりをしてきた米国人の罪悪感、中東における米国の戦略的重要拠点などとも相まって、イスラエルは米国にとって「特別な関係」(Special Relationship)を持った同盟国として優遇されてきた。