沿線はのんびりとした雰囲気で、日本の原風景ともいえる景色が広がっている

(山﨑 友也:鉄道写真家)

ドラマの撮影地やアニメの聖地としてファン激増

 静岡県の掛川駅と新所原駅とを結ぶ第3セクターが天浜線と呼ばれている天竜浜名湖鉄道。浜名湖の北側を通ってはいるものの東海道本線と並走しているので、東海道本線だけでも良かったような気がするのだが、それには建設当時の理由がある。

 天浜線の前身は旧国鉄二俣線で、1932年に路線の建設計画がスタートした。これは国防を絡めた交通機関の整備に基づいて発表された全国鉄道路線網案によるもので、戦争が拡大した際に東海道本線の天竜川や浜名湖などの鉄橋が破壊された場合の迂回路線として計画された。

 確かに天竜川橋梁は全長1209mで建設当時は国内最長、浜名湖には3本の鉄橋が架けられており、爆撃後の復旧には相当の時間を要すると思われる。こうしたことからそもそも迂回を目的として造られているため、先述したようにわざわざ遠回りしながらも東海道本線と並走するような路線となっているのだ。

 二俣線は1940年に全線が開通し、通勤通学のみならず木材や農産物、セメントなどの貨物輸送も盛んに行われて沿線は活気にあふれていたのだが、徐々に赤字へと転落していく。その後1987年に天竜浜名湖鉄道として生まれ変わるのだが、このようなプロセスは他の第3セクターの鉄道路線と大差はない。

 ところが天浜線は元気なのである。コロナ禍では利用者が大幅に減少したものの、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」や「ゆるキャン△SEASON2」といったアニメのモデル地になったことから、聖地巡礼などで沿線を訪れるファンが急増することに。またテレビ東京の番組「AKB48、最近聞いた?」でも取り上げられ、さまざまなコラボ企画が生まれたことからも、路線の知名度や乗車率のアップにつながっていった。これらの関連グッズは予想以上の反響があり、2023年度のグッズ販売収益は2019年年度に比べて何と約475%と驚異的な伸びを示している。

かつてTVドラマ「ウォーターボーイズ2」で姫乃駅としてロケ地になった原谷駅。改札口上には当時の駅名板が展示されている

 また「副駅名ネーミングライツスポンサー」のスポンサー契約も順調で、ラッピング列車の広告料とともに安定した収入源となっているなどの要因から、2024年3月期の単独決算は420万円の最終黒字を確保し、6期連続の黒字となっている。

 赤字が酷くて旧国鉄やJRから見限られたため、第3セクターで運営している鉄道のなかでは黒字経営の路線というのはごくわずかなので、利益額はともかく大変素晴らしいことではないだろうか。