雇用の不安定さというリスクを負っている派遣社員(写真はイメージ、umaruchan4678/Shutterstock.com)

川上 敬太郎:ワークスタイル研究家)

人材派遣業界が抱える深刻な課題を象徴する「会話」

「上限いっぱいまで派遣して3カ月のクーリング期間だけ契約社員として雇い、3カ月と1日経ったら派遣に戻せばいい」

「なるほど……」

 今から15年以上前、国会で労働者派遣法の改正が議論されていたころ、経営幹部の間でこんな会話を交わしていた人材派遣事業者がありました。派遣期間の上限規制が厳しくなった場合に、どう対応するかを協議する中で出た発言です。

 法改正後も売り上げや利益を下げないために知恵を出したかのような会話ですが、派遣社員の雇用安定を図るという法改正の主旨を考えれば、このような考え方は法の抜け穴を突く悪知恵でしかありません。人材派遣業界が抱える深刻な課題を象徴するような会話です。

 労働者派遣法の制定は1985年で、翌年施行されました。制定から今年で40年の節目を迎えたことになります。この間に派遣法は、規制の緩和と強化が入り混じる形で幾度も改正されてきました。

 また、度重なる不正発覚などで社会から厳しいバッシングを受けることがありながらも改善や努力を重ね、人材派遣業界は今日まで事業を継続してきています。ただ、冒頭でのやりとりのように、中には法逃れ策を練り続けて生き抜いてきたような事業者もあります。

 厚生労働省の「労働者派遣事業報告書」の集計結果によると、2024年6月1日時点の派遣事業所数は4万4035。派遣法制定から40年が経過したいま、目が行き届かないほど数が多く、決して一枚岩とも言えない人材派遣業界にはどのような課題があるのでしょうか。