
米中が100%を超える関税の大幅な引き下げに合意したことを受けて、関税戦争の影響が緩和されるとの見方がマーケットを駆け巡った。だが、先行きは依然として不透明で、日銀の金融政策、利上げの判断にも影響を与えている。そもそも、その判断の最重要根拠である「基調的な物価上昇率」とは、どのようなものか。実は、かなりあいまいな概念で、その動き次第では日銀が「ちゃぶ台返し」をしてくる可能性もある。
(河田 皓史:みずほリサーチ&テクノロジーズ チーフアジア経済エコノミスト)
トランプ米大統領の関税政策が世界経済を揺らしている。4月初めにトランプ大統領が「相互関税」の詳細を発表し、金融市場に「相互関税ショック」をもたらして以降、トランプ関税が世界経済にどのような影響を与えるかについての議論が休みなく続いている。
日々めまぐるしく状況が変わるほか、関税交渉の最終的な着地点がまだ見えていないこともあって、見方は人により様々だ。それでも、2025年の世界経済成長率に一定のマイナス効果をもたらすことについては、ある程度コンセンサスが形成されていると言っていいだろう。
こうした世界経済の減速は日本経済にも様々な影響をもたらし、それを通じて日銀の金融政策運営にも影響を与える。実際、日銀は5月初めに公表した展望レポートで、トランプ関税の影響を織り込み2025~26年度の経済・物価見通しを下方修正した。そのうえで、金融政策運営上の最重要変数である「基調的な物価上昇率」が「物価安定の目標と概ね整合的な水準」(=2%前後)に到達する時期を「2026年度後半~2027年度」へと後ろへずらした。
また、これまでは「基調的な物価上昇率」が(一本調子で)徐々に伸びを高めるとの見方を示していたが、今回は「いったん伸び悩んだ後、徐々に伸びを高める」との見通しに修正した。
日銀の植田総裁は、金融政策決定会合後の記者会見において、「基調的な物価上昇率」が伸び悩んでいる間は無理に利上げをしないと述べた。つまり、同じく植田総裁が会見で述べた通り、次の利上げは「基調的な物価上昇率」が伸び悩みから脱して再上昇し、2%に到達する確度が再び高まったときと考えるのが自然である。
なお、日銀が次の一手は「利上げ」とのスタンスを崩さなかったことも重要な点である。
したがって、利上げのタイミングを占う上では、「基調的な物価上昇率」がこれまで以上に重みを増すことになるわけだが、そもそもこの「基調的な物価上昇率」とは何だろうか。