行政でAIを本格利用するにはまだ信頼性に問題があるかもしれない(Pixabayからの写真)

 英国政府が国家公務員の業務効率化を目指して実施したAIツールの試験運用で、職員1人当たり年平均2週間分の作業時間を節約できたことが、先頃公表された政府調査明らかになった。

 スターマー政権は、AI導入を公共部門近代化の柱と位置づけ、大幅な経費削減を目指す方針だが、専門家からは技術的な課題や公的業務への適性について懸念も示されている。

マイクロソフト「Copilot」で成果

 この調査は、英国の国家公務員2万人以上を対象に3カ月間実施されたもので、米マイクロソフトのAIアシスタント「Copilot(コパイロット)」などが使用された。

 主な目的は、文書作成、長文メールの要約、報告書作成といった日常的な行政事務におけるAIの有効性を検証することにあった。

 調査によると、Copilotを利用した職員は1日当たり平均26分の時間を節約できた。これは年換算すると約2週間分(1日8時間労働で約80時間)に相当する。

 特に効果が高かったのは文書作成で1日24分、プレゼンテーション資料作成で同19分の時間短縮が確認された。

 英国の科学・イノベーション・技術相、ピーター・カイル氏はロンドンで開催されたSXSWカンファレンスでこの結果を公表し、「政府運営の方法を変革し、より賢明に働き、煩雑な手続きを削減し、税金の有効活用に貢献する」と述べ、AI導入による生産性の向上に期待を示した。

 試験運用期間中は、英国の法人登記機関であるカンパニー・ハウス(Companies House)における定型的な問い合わせ対応や登記情報更新に、また労働・年金省(DWP)における求職者への個別助言に、Copilotが活用された。

 職員の満足度も高く、82%がAIツールの継続利用を希望しているという。

8.7兆円の経費削減目標と今後の計画

 スターマー政権は、デジタルサービスによる公共部門の近代化を通じて、450億ポンド(約8兆7000億円)の経費削減を目標に掲げている。

 英政府は既に、生産性向上を目的とした国家公務員向けAIツール群「Humphrey(ハンフリー)」の開発を進めている。

 英国民が行政サービスにアクセスしやすくなるよう、新しいスマートフォンアプリやチャットボット(対話型AI)、運転免許証などを保管できるデジタルウォレットといったツールの開発も計画している

 英国立研究機関であるアラン・チューリング研究所の報告によれば、公共部門全体の業務の最大41%がAIによって支援可能だという。

 特に教員が授業計画の大半にAIツールを活用することで、大きな恩恵を受けられる可能性があると指摘する。