各界の読書家が「いま読むべき1冊」を紹介する書評コーナー『Hon Zuki !』。ノンフィクションを中心に「必読」の書を紹介します。

 これほど示唆に富み、説得に長けた本に巡り会えることはめったにない。しかし、発売後半年になるがメジャーなところで書評を見かけることはなかったし、Amazonのカスタマーレビューでは☆4.5とはいえ、二人しかレーティングしていない(2025年6月17日時点)。かくいう私も、しばらくの間、積ん読にしていたから偉そうなことは言えないが。

 タイトルどおり進化についての本である。しかし、その内容は進化に留まらない。本の後半、創造性やイノベーションを効率的におこなうにはどうすればいいかに話は進む。生物学の棚よりもむしろビジネス書の棚の方がふさわしいぐらいだ。

 考えてみれば、生物の進化とイノベーションには似たところがある。いずれも過去の上に立脚しているが、産み出されるものは新しい。かつて遺伝学者ドブジャンスキーは「進化を考慮しない生物学は何も意味をなさない」と喝破した。進化の重要性は生物学に限らない。生命進化から創造性を眺めた時、新しい意味づけが生まれる。

廻り道の進化 生命の問題解決にみる創造性のルール』(アンドレアス・ワグナー=著、和田 洋=訳、丸善出版)

実際の進化で何がおこってきたのか

 進化における「適応度地形」から話が始まる。理論進化学でよく使われる概念で、進化の過程を「山」あるいは「山登り」に喩えて視覚的に理解するためのモデルである。たくさんの山が平面から立ち上がっている地形を考えてほしい。山の高さは様々で、高い山ほど適応度が高い。すなわち、より生き残りやすい、言い換えると、より多くの子孫-個体であれ遺伝子であれ-を残せることを意味する。

 進化論のキモである自然選択を考えてみよう。自然選択は、適応度地形において、より高い方向へと進む動きと考えることができる。山が一つしかない場合、それは絶対的に正しい動きだ。しかし、実際には違う高さの山がたくさんある。そうとは知らずに低い山を登り始めてしまった場合、登りつめても周囲より低いところでおしまいだ。

 一旦下山するという動きができなければ、たとえ隣に高い山があったとしても、決してその高みへと到達することはできない。そう、自然選択=上に登っていくことは重要ではあるけれど、進化にとって十分とは言えないのである。では、それを克服するには何が必要なのか。いや、必要なだけではない、実際の進化では何がおこってきたのか。