
2025年5月3日午後、日本の遊覧飛行の小型民間機が尖閣諸島に近づくと、日本の領海侵入中の中国海警局の船からヘリが飛び立ち、日本の領空を侵犯した。
ヘリは民間機が現場を離れるのを見届けるようにして約15分で船に戻った。那覇基地からスクランブル発進した「F-15」戦闘機が現場へ到着する前にヘリは着艦していたと見られる。
中国側はその後、日本の民間機を「中国領空」から退去させるためにヘリを飛ばしたとの一方的な主張を展開した。尖閣諸島周辺で中国機による領空侵犯が確認されたのは今回で3回目となる。
1回目は2012年12月、中国の国家海洋局に所属していたプロペラ機が尖閣諸島の魚釣島の沖合上空で、数分間にわたって領空を侵犯した。
2回目は2017年5月、中国海警局の船4隻が尖閣諸島の沖合の日本の領海に侵入し、このうち1隻の周辺で小型無人機が飛行し、領空侵犯したのが確認された。
3回目の今回は、中国海警局のヘリコプター(Z-9哨戒ヘリ)による領空侵犯が初めて確認された。また、日本側への退去要求も今回が初めてである。
ちなみに、2024年8月26日、中国軍の情報収集機(Y9)が長崎県・男女群島沖の領空を侵犯した。中国軍機が領空侵犯したのはこの時が初めてであった。
さて、今回の遊覧飛行は、機長の80歳代の日本人男性が「奮闘する海上保安庁の諸君にエールを送りたかった」として計画したものであり、政府は、国土交通省や国家安全保障局、内閣官房事態室が対応を協議し、自粛要請を決めたが、聞き入れられなかったとしている。
中国海警局は5月3日、報道官の談話を発表し、沖縄県の尖閣諸島について中国が使っている呼称を使い「日本の民間機が釣魚島の領空に不法に侵入した」と主張した。
そして「法律に基づいて必要な措置をとり、ヘリコプターで警告してその場所から離れるよう迫った。日本に対し、一切の違法行為を直ちに停止するよう求める」とした。
一方、外務省の船越健裕事務次官は5月3日午後に中国の呉江浩駐日大使に極めて厳重に抗議するとともに、再発防止を強く求めた。
政府は尖閣諸島周辺の民間飛行への対応に苦慮している。
この事案では、政府の自粛要請を振り切って一帯を遊覧飛行した日本の民間機に中国側が反応して、ヘリを飛ばし、結果として中国側に“中国の領空を侵犯した”との口実に利用されてしまった。
今回の事案の概要については、すでに数本の記事が投稿されているので、本稿では別の視点から述べてみたい。
以下、初めに対領空侵犯措置について述べ、次に尖閣諸島の領有権問題について述べ、最後に米国の領土問題に関する中立政策について述べる。