ビジネス書の名著・古典は多数存在するが、あなたは何冊読んだことがあるだろうか。本連載では、ビジネス書の目利きである荒木博行氏が、名著の「ツボ」を毎回イラストを交え紹介する。

 一見、場当たり的に見える社長の決断。その背景にある「視野の違い」を、私たちはどれほど理解しているだろうか。本稿では、経営者のリアルを浮かび上がらせる徳谷智史氏の著書『経営中毒 社長はつらい、だから楽しい』(PHP研究所)を読み解き、社長の実像に迫る。

一般社員の描く社長のイメージは「虚像」

『経営中毒 社長はつらい、だから楽しい』(徳谷智史著、PHP研究所)

 私の最初のキャリアは、日本の伝統的大企業からスタートした。その会社で出会った社長というのは、まさに雲の上の人だった。会えるのは、厳かな全社イベントでのありがたいスピーチの時のみ。私にとって、当時のあの社長は、俯瞰的な視点から物事を捉え、合理的に答えを導き出すことのできる神のような存在だった。

 このように、社長という存在は良くも悪くも極端な存在として捉えられがちだ。何でも自分の好きなように決められる自由な存在と見られる場合もあれば、唐突にとんでもない決断を下す宇宙人のように見られることもあるだろう。

 有名な社長のサクセスストーリーを読んできた人であれば、私のように、社長という存在を神格化して見てしまう傾向もあるはずだ。

 しかし、それらのイメージは大抵虚像だ。確かに一般社員よりも権限は多く持っているかもしれない。ところが、その権限の大きさに比例するように周囲の期待は高まるものの、監視の目が厳しく、実際には行動の制約もかなり多い。結局は、私たちと同じような悩みを持つ一人の人間なのだ。