
変化が激しく不確実性の高い現代において高い競争力を発揮し続ける企業には、どんな特長があるのか。そうした企業には「従来の戦略論では語られない長期戦略として『ミクロのルール』が存在する」と語るのが、明治大学ビジネススクール教授の鳥山正博氏だ。2025年2月に著書『常識をいったん捨てて、思考の自由度を上げる マーケティングの新しい地図』(KADOKAWA)を出版した同氏に、常識にとらわれない戦略を用いて高い競争力を備えた企業の例や、これからの時代に経営者が持つべき視点について聞いた。
勝ち続けるセブン-イレブンが実践する「ミクロのルール」
――著書『常識をいったん捨てて、思考の自由度を上げる マーケティングの新しい地図』では、競争力のある企業が実践している長期戦略「ミクロのルール」について解説しています。その一例として、加盟店の平均日販において同業他社を上回り続けるセブン-イレブンを挙げていますが、具体的にどのようなルールが存在するのでしょうか。
鳥山正博氏(以下敬称略) セブン-イレブンが高い平均日販を実現している最大の要因は、「単品管理」の仕組みとその徹底にあります。その仕組みを支えているのが、食品雑貨のソースマーキング(UPCコード・JANコードをレジで読み取る技術)です。
そして、同社の創業者である鈴木敏文氏は、もともと米国でレジの省力化のための技術であった「ソースマーキング」をマーチャンダイジングに応用し、商品ごとの販売動向をリアルタイムで把握できる仕組みとして発展させました。これによって商品単位での売れ筋の把握や、きめ細かな在庫管理・発注判断が可能となりました。
もっとも、この技術自体は他社でも導入可能です。セブン-イレブンの真の競争力の源泉は、これらの仕組みに現場での徹底されたオペレーションが加わっている点にあります。例えば、一般的なコンビニチェーンでは、商品の発注権限は店長が担いますが、店長一人で数千点に及ぶ商品全てを適切に管理することは現実的ではありません。
そこで、セブン-イレブンでは発注端末を使ってパートやアルバイトが発注します。一人あたりの持ち分は100アイテム程度に設定されているため、各自が商品の売れ行きを把握し、結果を予想しながら発注できます。
例えば、おにぎりの場合には「このエリアは高齢層が多いから、梅干しやサケが売れるだろう」「雨で客足が減るだろうから、発注量はこのくらいにしよう」と予想しながら発注し、次の配送が来る時間までに最低陳列数である一定個数が残るように最適な発注量を考えさせる、という具合です。
このようにセブン-イレブンでは、ITインフラの力を駆使しながらも、現場にミクロのルールを徹底させることで、高い平均日販を実現しています。