家基が鷹狩りの後に休憩した品川の東海寺(写真AC)

 NHK大河ドラマ『べらぼう』で主役を務める、江戸時代中期に吉原で生まれ育った蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)。その波瀾万丈な生涯が描かれて話題になっている。第15回「死を呼ぶ手袋」では、蔦重が吉原で独立して自分の店を構えることになる。一方、江戸では、徳川家治の嫡男である家基が鷹狩りの最中に倒れてしまい……。『なにかと人間くさい徳川将軍』など江戸時代の歴代将軍を解説した著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)

家基の急死で関与を疑われた田沼意次だったが…

 大河ドラマ『べらぼう』は、横浜流星演じる蔦屋重三郎が中心となる吉原パートと、渡辺謙演じる田沼意次(たぬま おきつぐ)が中心となる幕府パートが並行して進み、時にクロスオーバーしながら物語が展開されている。

 今回の放送では、幕府パートに大きな動きがあった。第10代将軍・徳川家治(いえはる)の嫡男・家基(いえもと)が鷹狩りの最中に急変し、そのまま亡くなってしまったのである。

 ドラマでは、奥智哉演じる徳川家基が、鷹狩りのときに使った手袋の指の部分に毒物が混入されており、手袋を噛んだときに体内に毒が回って死に至ったという設定になっている。

 そこで贈り物である手袋を用意した田沼意次が、真っ先に疑われることになった。意次であれば、家基に指を噛む癖があったことも知っているはず。さらに、家基と意次が何かと対立した点でも、意次に疑いの目が向けられることとなった。

 事態を受けて意次は手袋の回収に動くが、不運なことに意次と対立していたベテラン老中で、石坂浩二演じる松平武元(たけちか)に先を越されてしまう。

 この手袋を動かぬ証拠として、意次を厳しく追求するだろう……と思いきや、意外にも武元は意次に「犯人はそなた以外の者」と断言。用意周到な意次がもし犯人ならば、証拠である手袋をもっとうまく処理するはず、というのだ。思わぬ展開に意次が安堵すると、武元はこんなセリフを吐いた。

「見くびるな。わしがそなたを気にくわんとは言え、これを機に使い、追い落としなどすれば、まことの外道を見逃すことになる。わしはそれほど愚かではない!」

 理不尽な目に遭っている人がいれば、相手が敵対する人物でも助ける。そんな武元の姿勢には心打たれるものがあった。