豆を選んで一杯点て。サードウェーブは昭和のこだわり喫茶とどう違う?

コーヒーの「サードウェーブ」という言葉を耳にしたことはあるだろう。(ざっくり過ぎる説明だが)インスタントコーヒーを含むコーヒーの大衆化がファーストウェーブ、スターバックスなどのスタンドコーヒーの普及がセカンドウェーブ、次なるサードウェーブは、コーヒーを眠気覚ましやハンディーな飲み物としてではなく、ワインのように、テロワールや技術に注目して味わう21世紀の新しい食文化といえる。

「サードウェーブ」のトレンドは2000年初頭、アメリカから火がついたとされる。

その当時、サードウェーブ発信地といわれるニューヨークのブルーボトルコーヒーに行ったことがあるのだが、トレンド最前線といわれるスタイルに正直、拍子抜けした。豆を選んで一杯ずつ点てるコーヒーに、なぜ大騒ぎしているのか? 昭和のこだわり喫茶の当たり前ではないか。そう思ったのはワタシだけでなかったようで、実際、「日本のコーヒー文化はサードウェーブを先取りしていた」という主張もある。

「豆の産地と、エクスペリエンス」

だが、昭和とは明らかな違いはある。たとえば、昭和の高級コーヒーといえばの「ブルーマウンテン」は、生産エリア(出荷地であることも)と、豆の等級を価値基準にした高価な豆だ。対して、サードウェーブの主役である「スペシャルティコーヒー」は豆の品種と産地、生産者から生まれる特殊なテロワールを重視する。スペシャルティコーヒーの「畑からカップへ」という合言葉は、豆のトレーサビリティ、サスティナビリティを重視していることの表れだ。つまり、サードウェーブは21世紀、SDGs的な価値観から生まれている。

メディアの扱いも熱い。カリスマバリスタやカフェを特集したBRUTUS

今や、街にはこだわりのコーヒー店が、雨後の筍のように現れた。どの店もとびきりスタイリッシュで個性的だ。これはサードウェーブコーヒーが、味、技術だけでなく、コーヒーの新しい「エクスペリエンス」を与えることを目指しているからだ。

お手軽な飲み物としてではなく、豆の出自やバリスタの技術に注目して、個性的な一杯を店とお客が共有する。

パナマのゲイシャという高嶺の花アイドル

品種と作り手に注目する「スペシャルティコーヒー」、その垂涎の豆が、ゲイシャと呼ばれる品種。中でもパナマのエスメラルダ農園のものがツウの間で特に高い評価を受ける。畑の場所によって100グラム5万円の価格をつける豆もあると聞くと、ロマネ・コンティのようではないか。

サードウェーブコーヒーがワインと似ている点が、ソムリエのような「伝え手」がいることだ。バリスタ、ロースター(焙煎)、ブリューワー(抽出)たち専門職が、日々、器具やテクニックを革新し、テクニックを磨き、ロジックを立て、個性的な世界観を展開する。まるでアーティストのようだ。

コーヒー文化の最先端を走るアスリートたちの戦い

そんなコーヒー世界の個性の広がりがある一方、技術の最先端を目指すステージもある。WCC(ワールドコーヒーコンペティション)だ。2000年に始まったこのコンペでは、機械抽出のWBC(ワールドバリスタチャンピオンシップ)、機械的動力を使わない(手動)抽出を競うWBrC(ワールドブリューワーズカップ)などの部門で、世界最高のコーヒースキルが競われる。

日本大会では、今年は60人が抽選で選ばれ内6人がファイナルに進出、決戦で代表が決まる。そのJBrC(ジャパンブリューワーズカップ)で初出場にしてファイナリストに選ばれて以来、世界を目指してトレーニングを続けるブリュワーに出会って知られざるコンペの様子を聞くことができた。

現在会社員というご身分のため、日本から世界を目指す「コーヒー侍」さんとしておく。

美味しさのために、どんな手段を使ってもいい、フリースタイルの沼

コーヒー侍さんが挑戦するJBrCのコンペは、「コンパルサリー」「オープンサービス」の2種目で競われる(予選はどちらか1種、決戦は2種目)。前者は支給された豆から最高の味を引き出す課題。後者はフリースタイルで、豆の入手から焙煎、抽出とプレゼンまでを競技者が考えて行う。何をやってもいいだけに、注ぎ込まれる工夫は底なし沼だ。

コーヒー侍さんの「オープンサービス」の一端を見せてもらった。

まず「勝負豆」パナマ産のゲイシャを、ドイツ製コマンダンテの手回しミルで挽き、KRUVEで振るい、粒度を揃える。イギリス製「オレア」のドリッパー三台に、「オレア」専用のスペイン製ペーパーを手で整えて仕込み、一台につき12gのコーヒーを入れる。使う器具は全てチャンピオン達御用達の、海外ブランドだ。

豆はドイツ製ミル、コマンダンテで挽く。鋭いニトロ・ブレードを搭載しネジの調整で粒度も自在。ハンドルを、1秒に二回転。挽いた豆の粒を揃えるのが重要
「KRUVE」は、挽いた粉の粒を揃えるためのふるい。味に歴然と差が出る
スペイン製のペーパー「シバリスト」を手で一枚づつ整える。ちなみに1枚70円。コーヒーの香りの邪魔になるハンドクリームやコスメの類は自粛

細心の注意を払う抽出は、温度調節機能のあるケトルから90度の湯を注ぐ。味わいと香りを一切損ねることなく抽出するため、湯の落とし方、ペース、サーバーとケトルの距離など、秒単位、ミリリットル単位での細かな法則がある。

湯が豆の味を含まずサーバーを素通りしてしまう「チャネリング」を起こさせないための配慮に、全神経をそそぐ
最初は30gの湯を入れて30秒蒸らす。湯を落とす速さと量、経過時間をスケールで測定しコントロールする

湯の落ちる量はデジタルスケールでチェックするが、日頃のトレーニングの成果もあって「一秒間に5グラム。ほぼ、スケールを見る必要がない」。渾身の一杯が、「アロマ、風味、後味、酸味、甘味、口当たり」という6項目の評価で審査される。

審査員への提供用のセンサリーカップ。縁が広がっているのは、アロマを広げるため。飲む際に舌全体に液体が広がる構造になっている
テイスティングは、スプーンからすくったコーヒーを口の中で霧状にする