
写真提供:共同通信社
「失敗は成功の母」とは言われるものの、実際には、失敗の危険性の高いことに挑むのは勇気がいる。特に減点主義が蔓延している日本企業では、あえてリスクを冒さない“無難”志向が強く、それがイノベーションを阻害する要因とも指摘される。そうした中、グローバルで成功している優良企業の事例を交えながら、失敗を類型化し、失敗を通じて生産性を向上させるためのフレームワークを提供しているのが、『失敗できる組織』(エイミー・C・エドモンドソン著、土方奈美訳/早川書房)だ。同書の内容の一部を抜粋・再編集し、そのポイントを紹介する。
今や世界的にも有名になったトヨタ生産方式だが、その根底にあるのは、同社ならではの科学的なものの考え方だ。それを象徴的に表す、ある会議でのエピソードを紹介する。
高品質を促すシステム

基本的失敗を減らし、継続的改善を促すシステムを設計することにおいてトヨタ自動車に比肩する会社はない。
トヨタが数十年にわたる試行錯誤によって進化させてきた手法を「トヨタ生産方式(システム)」と称するのももっともだ。この生産システムには個々の構成要素を足し合わせた以上の価値があるというのは、製造業の専門家の誰もが認めるところだ。
まずは「アンドン」から始めよう。
工場の作業員は生産ライン上の車両にミスがあると感じたら、すぐに呼び出しボタンを押して知らせるよう求められている。トヨタ生産方式のなかで最もよく知られる要素であり、それも故あってのことだ。その象徴的意味(「私たちはみなさんの意見、とりわけ改善につながるような問題の報告を求めている」)にはシステム全体の精神が表れている。
生産ライン上のいかなるミスも、それがプロセス上の他の工程に影響を及ぼす前に解決しようとする姿勢からは、トヨタがシステム効果も直感的に理解していることを示している。たった1つのささやかなミスも修正せずに放置しておくと、やがて重大な失敗に発展しかねない。アンドン・システムの起源は19世紀に豊田佐吉が設計した、糸が切れたら安全に停止する機(はた)織り機だとされる。
トヨタ生産方式のもう1つの重要な要素が、徹底的にムダを省こうとする姿勢だ。過剰在庫もムダのひとつなので(ビールゲームを思い出そう!)、ジャストインタイム生産(顧客が必要なときに必要なものだけを生産する)はシステムの主要な柱なのだ。