写真提供:鴻海精密工業

「インベーダーや海賊、あるいはスターウォーズのダース・ベイダーのような感じで警戒されているのは、全くの濡れ衣です」。台湾の製造業大手、鴻海精密工業(フォックスコン)のEV事業を率いる関潤氏は、4月9日、都内で開催された「鴻海EV戦略説明会」でこう切り出した。鴻海が日本メーカーと提携し日本の自動車産業に参入するのではないかという報道に、国内では警戒感が高まっている。鴻海は自社ブランドを立ち上げるのか? 日本メーカーとどう関わっていくのか? かつて日産自動車副COO、日本電産(現ニデック)社長を務めた関氏は、鴻海のEV戦略についてビジネスモデルから技術展望まで包括的に説明した。

委託製造のDNAがEVビジネスモデルの根幹

 鴻海は世界最大のEMS(電子機器受託製造サービス)企業であり、世界のEMS市場におけるマーケットシェアは46.1%、年間売上高は2080億ドル(約32兆円)に上る。関氏はこの数字をもって、単なる事業規模ではなく「お客さまの信用の象徴」だという点を強調した。

(写真提供:鴻海)

「委託製造が主業であるわれわれにとって、最も重要なのはお客さまの秘匿情報の取り扱いです。売上がここまで伸びているということは、お客さまの情報が一切外部に漏れるような事故を起こしていないという証明になります」と関氏は説明する。

 この委託製造のDNAは、同社のEV戦略にも一貫して反映されている。

 鴻海のEVビジネスは従来型の委託製造サービス(CMS:Contracted Manufacturing Service)と「Contracted Design & Manufacturing Service(CDMS:設計から製造まで一貫して請け負うサービス)」の2つのモデルから成る。CDMSは鴻海が自社開発したEVを他社ブランドで販売するモデルだ。

 特に注目すべきは、鴻海がB2B企業としてのアイデンティティーを強く保持している点だ。「われわれは全くB2Cをやる意識はなく、あくまでB2Bに徹します。当社のプラットフォームを使ってお客さまがB2C事業を展開し、そこに貢献するというのがわれわれのビジネスです」と関氏は明言する。

 将来的に自社ブランドでEVを販売する可能性についても、関氏は断固として否定した。