
ロケットや人工衛星と聞くと、多くのビジネスパーソンは「自分の仕事や日常とは遠い世界の話」と考えるかもしれない。しかし実際には農業、漁業、鉱業、金融、災害対策、地図、通信など、現代社会ではあらゆる産業に宇宙技術が活用され、人々の暮らしを支えている。本稿では『宇宙ビジネス』(中村友弥著/クロスメディア・パブリッシング)から内容の一部を抜粋・再編集、壮大な宇宙空間が生み出すビジネスの可能性を探る。
GPS技術をきっかけに生まれ、巨大市場へと成長したカーナビを筆頭に、「測位衛星」の正確な位置・時刻情報が支えるさまざまなビジネス。測位データが秘める可能性とは?
位置情報×日本で生まれた巨大なビジネス

アメリカがGPSを開放したことによって生まれた、日本発の巨大なビジネスがあるのですが、思い当たるものはありますか?
実は、地図型のカーナビは日本が世界に先駆けて開発し、世界中に広がった自動車関連ビジネスです。さらに驚くのは、GPSがなかった時代に日本がカーナビの仕組みを考案し、開発したということです。
世界で初めて地図型のカーナビを開発したのは本田技術研究所でした。当時、ドライブする際には、地図を見て目的地までの道順と、各ポイントにある目印を覚える必要がありました。それを当たり前だと思わずに最終的なゴールは自動運転車であることを見据えて、まずは自分の位置を車が把握することを目指して作られたのが世界初のカーナビです。
具体的には、車に適したジャイロスコープ(ものの向きや角速度を検出する装置)を開発し、特注の地図をブラウン管の画面に差し込んで、専用のペンで車の現在地を最初に記録させて走らせることで、車が今どこを走っているのか把握するという手法(地図の外に車が出る場合は地図を差し替える必要があり)でした。
今考えるとかなりアナログな手法ですが、車がどこを走っているのか二次元空間で常にわかるとなったときの世間の驚きは想像に難くないでしょう。
その後、モニター上に電子地図を表示する「エレクトロマルチビジョン」をトヨタが発売し、地図を差し替えることなく自車の位置がわかるようになりました。