日立製作所のAI技術実用化の歴史は長く、始まりは1960年代のトランジスタ量産における検査工程の画像認識までさかのぼる。同社のAI・メディア処理技術の研究開発に長く携わってきた先端AIイノベーションセンター主管研究長影広達彦氏に、映像解析ソリューション、インダストリアルメタバースといった先進事例とその実用化への道のり、今後の方向性について語る。

※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第5回 AIイノベーションフォーラム」における「特別講演:社会インフラに向けた日立のAI技術と適用事例の紹介/影広 達彦氏」(2024年12月に配信)をもとに制作しています。

1960年代からAI技術活用、70年代は郵便の宛名認識に適用

 日立製作所は1910年からOT(Operation Technology)と呼ばれるシステムや設備の制御・運用技術を中心に、IT、IoTへと展開しながら、さまざまな領域の重要インフラを支えてきた。

 日立のAIの歴史は1960年代から70年代、第1次AIブームに始まる。国産コンピューターの「HITAC」、トランジスタを量産する組み立てシステムにおいて、AI技術による画像認識で検査工程を自動化したのだ。

 続く1980年代からの第2次AIブームでは、郵便局のバックヤードで郵便物を仕分ける「郵便区分機」の宛名認識にAI技術を適用。さらに、正しいキーワードでなくとも概念的に近いものを検索できる「知的インターフェース」のプロトタイプを作った(下図)。

 2000年代以降、ディープラーニングの進化とともに第3次AIブームが起こり、現在に至る。この中で日立は2021年にAI倫理原則を策定し、人の行動解析、複数ロボットの連携など、AI研究開発を先駆的に推し進めてきた。