株式公開買い付けの価格引き上げを説明するローランド ディー.ジー.の小川和宏常務執行役員(2024年04月26日)
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 2023年、経済産業省が「企業買収における行動指針」を策定。上場企業に対する「同意なきTOB(敵対的買収)」のルール整備が進み、東京証券取引所による資本コストや株価に対する意識向上の要請、機関投資家の厳格な視線が経営者に株主価値の向上を迫る。その結果、取締役会の賛同が不要な「同意なきTOB」が増加、企業の支配権が市場で争われる可能性が高まっている。

 本稿では、企業買収やアクティビスト対応の助言を手掛けるQuestHub(クエストハブ)の大熊将八氏が、ブラザー工業による買収に反発したローランド ディー.ジー.(DG)の事例から、MBO(経営陣が参加する買収)公表後の「同意なきTOB」に対する打ち手について考察する。

ローランドDGのTOBに際し、対抗提案に乗り出したブラザー工業

 今回は、MBO(経営陣が参加する買収)の公表後、第三者から対抗提案を行われたケースとして、2024年にMBOを公表したローランド ディー.ジー.(DG)と、対抗提案を実施したブラザー工業の間のコミュニケーションに焦点を当てる。特に「ディスシナジー」(マイナス効果)を軸としたローランドDG側の主張と、その対応の有効性について見ていこう。

 まずは、本件の経緯から再確認したい。2024年2月9日、広告・看板用インクジェットプリンター大手のローランドDGは、同社大株主であったタイヨウ・パシフィック・パートナーズ(タイヨウ)をスポンサーとするMBOを公表した。タイヨウによるTOBの買付価格は一株5035円で、公表前の株価に対し約3割のプレミアム(上乗せ幅)を付したものだった。

 これに対し、オフィス向けプリンター等を手掛けるブラザー工業は、3月13日、同社に対し同意を得ない対抗提案を公表。TOB価格はタイヨウを上回る一株5200円だった。