写真提供:Prashanth Bala / Shutterstock.com

「ものづくり大国」として生産方式に磨きをかけてきた結果、日本が苦手になってしまった「価値の創造」をどう強化していけばよいのか。本連載では、『国産ロケットの父 糸川英夫のイノベーション』の著者であり、故・糸川英夫博士から直に10年以上学んだ田中猪夫氏が、価値創造の仕組みと実践法について余すところなく解説する。

 ダイバーシティ(多様性)を単なる“配慮事項”ではなく、価値の創造へとつなげるためにはどのようなアプローチをすれば良いのか?

DE&Iの視点で考える価値創造システム

 現在のアメリカではDE&I(Diversity:多様性、Equity:公正性、Inclusion:包括性)に対する反発が強まっている。そのため、連邦政府や一部の企業では、従来進めてきたDE&Iの取り組みを縮小または廃止する動きが見られる。しかし、DE&Iは人口減少社会において不可欠な視点である。人材確保という「供給面」と、多様なニードに応える「価値創造面」の両方に関わるためだ。

 こうした状況にあっても、アップルは今でもDE&Iを重視している。それは、同社の製品が世界中のさまざまな人に使われており、「すべての人に力を与え、喜ばれる製品を作る」という理念が、製品開発(価値創造)の方針に深く根付いているからである。アップルにとっては、異なる文化や価値観を持った社員が協働すること(戦略的異質性活用)こそが、新しい視点やアイデアを生み出す「創造性の土台」となっているのだ。

 今回は、このDE&Iの視点から、価値創造システムについて考察していく。

 経済産業省は、DE&Iという用語こそ用いていないが、これらの概念を含む「ダイバーシティ経営」を次のように定義している。

「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」

 この定義からも、政府がダイバーシティ経営の推進を通じて、企業の競争力強化やイノベーションの創出を目指していることが読み取れる。