写真提供:©Vincent Isore/IP3 via ZUMA Press/共同通信イメージズ
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 イノベーションは無から有を生み出すことではなく、既存の物事を新たに組み合わせることによって生まれる――そんな認識の下、組織や事業、技術の革新を目指す企業は少なくない。しかしその具体的な手法を見いだせず、過去の延長線上に留まっているケースが多いのが実情だ。本稿では、『創造する組織 多様性からイノベーションを起こす実践的方法』(永井翔吾著/BOW&PARTNERS発行)から内容を一部抜粋・再編集。イノベーション創出の鍵となる「パラドクス戦略」に着目し、企業事例を基に、対立する価値観・戦略を統合して創造的な革新を実現する方法を明らかにする。

 業績が悪化していたユニリーバを立て直すべく、2009年に就任したポルマンCEO(当時)。SDGsやESG投資が当たり前になるより以前に、なぜ「サステナビリティ」と「事業性」をともに追求するいうパラドクス(逆説)に挑んだのか?

ユニリーバを再建したポール・ポルマン氏の例*1

創造する組織』(BOW&PARTNERS)

 2009年、ポール・ポルマン氏は、金融危機で倒産寸前だったユニリーバのCEOに就任しました。彼は、その後、同社の株価を300%押し上げるとともに、同社を持続可能な経営のモデル企業へと変革しました。

■ 「サステナビリティ」と「事業性」のパラドクスにも挑む

 ポルマンが取り組んだのは、「サステナビリティ」と「事業性」のパラドクスです。2025年の今でこそSDGsやESG投資の動きが活発になり、サステナビリティが経営戦略に組み込まれることは一般的になりつつあります。しかし、それよりも15年も前に、ポルマンはこのパラドクスを乗りこなそうとしていたのです。

 当時のユニリーバは、金融危機の影響により倒産寸前で、顧客のロイヤリティも従業員のやる気も低下していました。加えて、VUCAと言われる先行きが読めない時代に入り、気候問題などの社会課題も顕在化してきました。

 同じく厳しい環境に置かれていた当時のリーダーたちは、こうした経済面や環境面の波乱含みの現実を自社がどのように耐え忍ぶのかを考えていました。

 しかし、こうした状況を総合的に考察したポルマンは逆に、組織が利益だけに注力するのではなく、利益を上げながらも世界の課題の解決を図ることはできるだろうか、ビジネスで社会に害を与えるのではなく、ビジネスによって社会を進歩させられないだろうか、と問い直しました。

*1 ウェンディ・スミス教授、マリアンヌ・ルイス『両立思考』(産業能率協会マネジメントセンター、2023年)