
決して社内にITのエンジニアやプログラマーがいるわけではない。それでも外部委託ではなく、“内製”でアプリを開発したのは、そのやり方だからこそ「現場が使いやすいものを作れる」と信じたからだった――。業務用の清掃製品などを製造・販売するシーバイエスでは、清掃業者用の業務管理アプリを社内で開発。大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)でも導入されるなど、新たな事業として成長の兆しを見せている。ITに長けた人材がいない中、どのようにしてアプリを内製したのか。その道のりをたどった。
既存事業への危機感も「デジタル進出」の契機に
創業60年以上の歴史を持つシーバイエスは、業務用の清掃洗浄剤やワックス、清掃機器といった「清掃資機材」を製造・販売してきた。商業施設やホテル、病院の清掃受託業者などが主な顧客となる。
同社は今、こうした従来の事業に加えて、新たに清掃業者用の業務アプリの開発・販売を始めている。なぜデジタル領域へと事業を広げたのか。始まりは2022年12月、社内で「デジタルツール開発プロジェクト」が発足したことに起因する。
「このプロジェクトは、定年を間近に控えたベテラン社員が『業界への恩返しに何かできないか』と考えたことから立ち上がったものです。私たちがやりとりするビルメンテナンス業界は、人手不足が深刻であり、生産性向上が急務です。その目的を叶えるのはデジタルツールであり、当社で開発・販売しようというアイデアが出てきました」
そう話すのは、発足から現在までこのプロジェクトを担当するシーバイエス 商品開発本部 コンサルティング部 デジタルソリューション課の畑伸弥氏。こうした経緯に加え、自社のビジネス環境に対する危機感も、新たな事業を模索した背景にあったという。
「清掃資機材の市場は、かつてと比べて成長ペースが緩やかになっています。背景には、業界全体で清掃作業の効率化が進んでいることに加え、建物の構造自体がメンテナンス性を考慮した設計へと進化していることがあります。これにより、洗浄剤の使用量も過不足なく、より適正化されるようになってきました。こうした変化は業界として望ましい方向である一方で、従来の製品提供だけでは成長の限界が見え始めており、新たな価値を提供できる領域への挑戦が必要だと感じました」
併せて、他社との差別化や、今までと違う角度の事業を作って顧客接点を増やすためにも「デジタルツールの開発に着手したのです」と振り返る。

自社の強みを生かすために選んだ「開発戦略」
とはいえ、同社はデジタル事業で十分な実績があるわけではない。ITに長けた人材もいない。どのようなデジタルツールを開発するのか、プロジェクトは序盤から難航した。社内から懐疑的な声が上がることもあったという。実は当初10人以上いたプロジェクトメンバーも、いつしか発起人のベテラン社員と畑氏の2人で進める形になっていた。
そんな中でも決めたことがある。デジタルツールの開発を社内で行うことだ。
「今はITの進化が激しく、一度作ったもののアップデートや方向転換が頻繁に求められます。仮に開発を外部に委託すると、こうした小回りの利く作業をしにくく、またアップデートの費用に関する社内稟議なども都度行わなければなりません」(畑氏)
外注ではスピードが出ず、今回の取り組みには適してないと感じた。ゼロから作るツールであり、細かく改善しながら質を高める必要があるからだ。そこで自分たちで開発しようと考えた。
「もちろん、最初から内製できる自信があったわけではありません」と、畑氏は回顧する。ただ、いろいろと調べる中で、近年はプログラミングの知識が要らず、ノーコードでアプリを作れるツールが出ていることを知ったという。
その中で行き着いたのが「Platio One(プラティオワン)」というサービスだった。これは業務用のオリジナルアプリをノーコードで作成し、他社へ販売・提供できるもの。すぐに体験会に参加し、実際に操作をしたところ、「これなら私たちでもアプリを作れる」と畑氏は感じたという。その上で、同サービスの価格も月額1万円からと始めやすかったため、「とりあえずアプリを作ってみようと考えたのです」と話す。
アプリを作る上では、シーバイエスの強みを生かすことも重視した。同社の強みとは、営業担当が現場に足を運び、清掃業務を行う人の実情や悩みを日々聞いていること。「一緒にワックスを塗ったり、掃除をしたりしながらお話を聞いているのが特徴です」と畑氏。この業界はパートや高齢の労働者が多く、また近年は外国人労働者も増えている。そうした人たちの生の声をアプリ開発に生かそうと考えた。
「そこで、いったんプロトタイプのアプリを作り、現場の方に実際に使っていただきながら、そのフィードバックを基に改善を重ねることにしました。こうした“フィールドテスト”を1年ほど行い、現場の方が使いやすいアプリに近づけていったのです」

3000回のバージョンアップ、小さな工夫に現場の声がある
これらのプロセスを経て作られたのが、「Clean Care VIEW(クリーンケアビュー)」というアプリだ。ビルメンテナンス現場の日常業務をデジタル化するもので、従来は紙で管理されていた清掃における「点検」や「報告」などの業務、あるいはビル管理で必要な「遺失物管理」「鍵管理」などに関するオリジナルアプリを提供している。
アプリで入力した内容をPDF化して印刷したり、他ツールと連携して入力データから課題を分析したりすることもできる。
今では10近いアプリがあるが、最初は清掃の「点検」業務のアプリ開発からスタートした。理由として、現場ヒアリングで紙の作業が多いとわかっていたことに加え、この業務は資格が必要であり、その資格保持者はWebで公開されている。
「誰にこのアプリをアプローチすれば良いのか、またアプリのユーザーとなり得る対象者数が全体でどのくらいいるのか、売り上げの規模感を把握しやすかったのです」(畑氏)

一方、フィールドテストを行う中で、「報告」業務に困っている声も多く、デジタル化のニーズが高いことも分かってきたという。
報告業務とは、簡潔に言えば現場で決められた清掃業務を完了したかどうかを報告するもの。これらも紙で行われていることが多く、書き間違いや、報告に必要な現場写真の撮り忘れなどが珍しくなかった。アプリにしてほしいという現場のニーズは強く、それらを具現化した。
アプリの操作画面についても、フィールドテストで実際に使用してもらいながら改善を重ねたという。先述の通り、この業界はスタッフの年齢層が高く、デジタルに馴染みのない人も多い。「スワイプやブックマークという言葉を知らない人もたくさんいます」。こうした背景があるからこそ、紙の作業が残っていた面もある。
そこで、現場の人たちに丁寧に説明しながら、デジタルに慣れていなくても使いやすい操作性を追求していった。
「例えば、アプリで必要事項の記入漏れがないよう、未記入の部分はグレーで表示されるようにしました。現場の方は、グレーの箇所を全部なくすように入力すれば良いので、分かりやすくなります。これはまさに、フィールドテストで出てきた意見をヒントにしたものでした」(畑氏)
そのほか、スマートフォンなどの文字入力に慣れない人の負担を減らすため、入力項目はなるべくタップ操作で完結できるように変えていった。
「自分たちでアプリの仕様変更をすぐに反映できるのは、最大のメリットでした。お客さまとの打ち合わせ中にその場でアプリを改善したら驚かれたこともありましたね」
なお、こうした改善によるアプリのバージョンアップ回数を確認したところ、合計3000回以上のアップデートが行われていたとのこと。それはまさに、現場の声を細かく反映していった証だ。
「現場を知っている私たちだからこそ、使う方の声を反映したアプリを作れたと思います。もし外部に開発を委託した場合、いま言ったような現場の声や悩みを業界の外にいる開発会社が細かくくみ取るのは難しいですし、現場側もうまく伝えられないでしょう。当社がヒアリングから実装までやってしまった方が齟齬はなく、スピードも早いのではないでしょうか」
スピーディな機能更新が評価され、大阪・関西万博で採用
「Clean Care VIEW」はさまざまな企業で導入されており、特にオフィスビルや商業施設、病院などの清掃を受託している会社の利用が多いという。導入先では、アプリに関連する業務時間が50%以上削減されているとのこと。さらに畑氏がうれしかったと話すのは、このアプリが導入企業の経営に貢献したことだ。
「清掃受託業者も競争の激しい世界ですから、毎年、発注元のオーナーと契約更新をする際には、他社との違いや自社の付加価値をアピールすることが求められます。とはいえ、清掃の領域でそれらを提示するのは簡単ではありません。実は、ある清掃受託業者の方からそういった悩みを聞いた時、このアプリで収集したデータやそれを基にした分析シートを使って、清掃品質を高めていることをオーナーに説明してみてはいかがですかと提案しました。それらを実行したところ、契約更新につながったようです。これはうれしかったですね」
本アプリの開発は、シーバイエスにも多くのメリットをもたらした。当初の目的である新たな事業を確立できたこと、他社と差別化できたことに加え、顧客関係を広げられたことも大きい。
これまで同社は、ビルメンテナンスの中の「清掃」分野にのみ携わっていた。しかし、今回の取り組みによって「設備点検」や「警備」の分野にもアプローチできるようになったのだ。先述の遺失物管理や鍵管理といったアプリがその例だ。
さらに、大阪・関西万博でも「Clean Care VIEW」が活用されている。ダスキンをはじめ、会場の清掃を請け負う5社がこのアプリを利用。清掃の指示報告や、それらのデータを基にした報告書の自動作成などに使われている。
大阪・関西万博に使用されているアプリは、リクエストにより、トイレに設置されたQRコードを読み取ることで簡単に清掃記録をつけられる機能を付加している。こうした要望にスピーディに応えられる点やコスト面なども評価されたという。
「内製できるのか」大きな不安を打ち消したもの
畑氏はプロジェクトの道のりを振り返り、「本当に自分たちですべて内製できるのか、その不安はずっとありましたし、今もないわけではありません」と穏やかに語る。大阪・関西万博のアプリでも、上がってくる要望にはすべて畑氏が対応した。
「その点で良かったのは、Platio Oneのサポート体制が充実していることです。ホームページには知りたい情報が詰まっていますし、直接問い合わせした際もすぐに回答をもらえています。サポートの充実度は国産ツールならではだと思います」
これ以外にも、Platio Oneは操作画面が直感的でわかりやすく、アプリ作成が簡単に行えたこと、アプリのベースとなるテンプレートが100種類以上用意されていることも大きかったという。
今後は、「Clean Care VIEW」をより多くの企業に活用してもらうほか、畑氏自身もこの経験を機に、業務の幅を広げていきたいと意気込む。
「ノーコードについて詳しく知ることができたので、この技術を使って新たなツールの開発や、社内業務の効率化に挑戦していきます」
恩返しをしたいというベテラン社員の一言で始まったこのプロジェクトは、シーバイエスにも、畑氏個人にも大きな財産をもたらした。その成功を生んだ要因は「自分たちでツールを内製する」という決断にあったのかもしれない。たとえ経験がなくても、自前で開発する。その決意の下に一歩を踏み出したことが、今の果実につながっている。

シーバイエスが採用した「Platio One」とはーー
Platio Oneは、アステリア株式会社が提供するノーコードツール。現場業務に特化したモバイルアプリを、エンジニアでなくても手軽に作成し、自社製品として販売・提供できるのが特長だ。 月額1万円から利用でき、自社が開発・提供している業務システムやサービスと連携することで、モバイルフロントとしての活用も可能だ。 特別なITスキルがなくても、“自分たちの手“でアプリを作り提供できる手軽さが魅力。
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