ジャガー TYPE 00
完全EV化を予定しているジャガーは2024年末、電動化時代の新生ジャガーを印象付けるまったく新しいコンセプトモデルをお披露目した。そのジャガーは資本的には2008年からインドのタタ・モーターズがオーナー(出所:ジャガー)

「100年に一度の変革期」にあるとされ、業界再編に沸く自動車業界。一方、今日までの約100年間、かつての競争力を失い続け、現在は自国資本のメーカーはないと言っていい状況にあるのがイギリス自動車産業。しかし、イギリスを拠点とする自動車ブランドの重要性は陰るどころか、むしろ電動化・デジタル化が進む現在、さらに増しているとすら言えると自動車ライター・大谷達也氏は指摘する。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2025年1月27日)※内容は掲載当時のもの

100年前イギリスには183もの自動車ブランドがあった

「私はローバーが憎い。なぜならオースティン、モーリス、ウーズレイといったイギリスの自動車ブランドを全て殺したのはローバーだからね」

 およそ30年前、イギリスを代表する自動車ジャーナリストだったロナルド・“ステディ”・バーカーさんは私にそう語った。

 ローバーはイギリスに存在した自動車ブランドの一つ。イギリスはかつて自動車ブランドの宝庫で、1922年には183ものブランドが操業していたと伝えられる。前述したオースティン、モーリス、ウーズレイの3ブランドはいずれもその当時から存在していた老舗だが、彼らはイギリス自動車産業界の国際的な競争力低下に伴って合従連衡の波にのみ込まれ、1952年に設立されたブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)に統合。しかし、ここで誕生した「イギリス自動車メーカー連合」は、さらにブリティッシュ・モーター・ホールディング(BMH)、ブリティッシュ・レイランド・モーター・コーポレーション(BLMC)などと名前を変えながら、1986年にはローバー・グループとして再編成されるが、ここまでの過程でほぼ全てのブランドは消滅し、イギリスの華やかな自動車文化も衰退の一途をたどっていったのである。

 バーカーさんは、そうした悲しい変遷の象徴となったローバーのことを「憎い」と表現したのだ。